シスター渡辺、咲きましたよ!
カトリックの愛の精神を理想に掲げる聖心学園東京保育専門学校において保育専門職の修業課程を立派に修了され、晴れて卒業される皆様に心からのお祝いを申し上げましょう。ご卒業まことにおめでとうございます。
今年卒業される皆様は例年にも増して活発で、勉学、聖心祭、就職活動にも積極的に取り組まれ、様々な成果とエピソードを残してくださいました。
聖心祭は、保育の実技習得の重要な部分を占める児童文化研究活動の集大成と位置付けられています。毎年進化し続けていますが、今年は『魔法にかけられて Welcome to the world of pictures!』という素敵なテーマで、校舎の飾りつけから、お隣の聖心学園幼稚園の子どもたちのおもてなし、発表・作品展示・模擬店まで大変レベルが高く魅力的で、来場者の方々を楽しく夢のある保育の世界に誘ってくださったと思います。
どれも素晴らしかったのですが、『シンデレラの劇』が一番テーマに即していたかなと思いました。結末がシンデレラのリベンジではなく皆が仲良くなる筋書きで、セリフにはユーモアやエスプリもあり、演技の合間には合唱やダンスと盛り沢山で、舞台道具のやりくりも臨機応変でした。そして上演後、お姫様役と王子様役が子どもたちに取り巻かれて、いわゆる追っかけにあっている様子も大変微笑ましく感じました。
さらに、子どもたちが描いた個性豊かな様々な怪獣の絵を背景に歌われた『怪獣のバラード』の合唱も素晴らしく、こちらは今もホームページで観ることができ、アクセスも多いようです。
聖心祭のパンフレットの表紙に『ぐりとぐら』の挿絵が描かれているのをご覧になった理事の森本禮子先生から、『ぐりとぐら』の作者の中川李枝子さんの秘密を教えて頂きました。中川さんは、何と同じ学園に併設されている聖心学園幼稚園の卒園児だったのです。当時、高円寺教会司祭と本校初代校長を兼務されていたグスターブ・マイエ神父様のことを覚えていらっしゃるとのことです。中川さんは公立の保育専門学校を卒業されてから、私立の保育園に就職され、保育のお仕事で奮闘される傍ら、絵本『ぐりとぐら』を制作され、今ではシリーズ全体の発行部数が1千万以上の超有名作家であることは皆様よくご存知のところです。皆様とは同じ聖心学園ゆかりの方であるとともに、皆様にとってプロの保育者の先輩であったという不思議なご縁があります。
さて、大事なカトリックの愛の精神につきましては、皆様は、晴佐久昌英神父様をはじめとして、ガエタノ・コンプリ神父様あるいは渡辺和子シスターなど錚々たる先生方から直接薫陶を受けられました。これは、本校学生の皆様に対する最高の贈り物であり、フレーベルが恩物と呼んだ子どもたち向けの遊び道具のように目には見えませんが、大人のための精神的な恩物にあたると思います。正に東京保育専門学校の恩物です。
残念なことにシスター渡辺は、昨年末にお亡くなりになりました。シスターは本校学生をこよなく愛され、20年近くに亘って毎年必ず1部1年生に特別なお話をしてくださいました。教壇に立たれた88歳にもなられる先生から直接親身なお話しを伺えたことほど、感銘深いことはなかったのではないでしょうか!
図書室にある『美しい人に、愛はほほえみから』『面倒だから、しよう』など、シスターの多くの著書やCDでさらに深く勉強された方もいらっしゃるでしょう。私は、200万部を超えるベストセラーとなった著書『置かれた場所で咲きなさい』が好きです。置かれた場所でまじめに最善の努力を続けられたシスターの打ち明け話をいろいろ伺って、益々先生が好きになりました。
最後になりましたが、様々な困難を乗り越えて本日卒業される皆様に祝福の言葉をお贈りします。卒業式場の高円寺教会内は、文字通り花のように艶やかで、喜びに満ち溢れた皆様のおかげで、大きな花畑のようです。「シスター渡辺、咲きましたよ!」とご報告することができます。
どのような場所であれ保育・幼児教育の仕事ほど尊い職はありません。これからも皆様が置かれた場所で、それぞれの個性あふれる花を咲かせられるようにと、心から祈念いたします。
それでは、東京保育の恩物を携えて、行ってらっしゃい!
(2017年3月卒業式スピーチ 松本勲武)